下肢静脈瘤の最新ニュース

高齢で、急に痩せたとか物が胃につかえるなどという症状が出ていても、胃癌の五年生存率は九五パーセント以上といわれるほどに成績がよい。
父は十年ほども元気に生き、九十二歳で老衰のため穏やかに母のもとに逝った。医者になったただひとりの男孫も解剖に立ち会い、胃癌は完治していたことを確認している。
およそ半世紀前、一九五○年ごろ。九州の大学病院に勤務していた父が、ある高僧を診察した。
当時は唯一の検査法であった胃のレントゲン透視に写った影は、癌の診断に慣れた目にだけ発見できる程度の小さな胃癌で、父はこの大きさでこの顔付きの癌なら、必ず治せると確信した。さまざまな修行を積み、悟りを開いたといわれる僧は「手術をした方がよいか?」と聞くと、「宜しく」と言ってていねいに頭を下げた。
そして
「私は仏に仕える身で、決して死を怖がるものではありません。もし悪い病気でありましたなら、そのようにおっしゃっていただいた方が、私にとって有り難い」
と、付け加え父は迷った挙句、きっと手術で治せるという自信をもって「あなたは癌です」と告げた。
予想通り手術は成功して、その後九十一歳の寿命を保って入寂した。だが実は、その僧はいまだ癌告知は早すぎた。
「いやあ、友達として気を使ってくれてありがとう。さすが長年の付き合いじゃ。そうか、もう手術もできんほど悪いか。そうか」
と、もっと落ち込んだ。

その後、どんなに否定しても事態はますます悲劇的になっていく。
父は出来上がったレントゲンのフィルムを持って、病室へ行った。自分の病気が癌であったことを知って以来ひどく落ち込んで、老衰で亡くなるまで長々と癌に対する恐怖を引きずりつづけたと、死後に側近の僧が語った。
これを聞いて、やはり癌は決して告知してはならないものと、父は思った。時を同じくして、父と医学部の同じクラスで席を並べ、その後開業したひとりの友人が悲壮な面持ちで病院に父を訪ねた。
「癌になった。手術してくれ」と肩を落とすその友を、ひとまず病棟に入れてレントゲンをとっていると、何のことはないひどいただれが胃の中一杯にある。
旧制高校以来の付き合いの気安さで、
「おい、貴様があんまり癌、癌、言うから、胃が恥ずかしゅうて真っ赤になっとるバイ。エロージオンじゃ、ただの胃炎じゃ。手術なんかせんでいい」
と、大らかに診断を告げた。
現代、二○○○年。
「癌告知は、一○○パーセントやります」と力を込めてシプリンは言う。医師になって二十年、四十代半ばで大学病院に勤めるこの内科医は、C型肝炎から肝硬変癌が死病であったころの話である。

告知するのは当たり前「貴様がそんなに疑うなら、自分で診たらよか。癌の影も写っとらんぞ」と、目の前にその写真を透かして見せた。
「あ−、それはオレがいつも使う手じゃ。医者の患者には、あかの他人の何ともないフィルムを見せて安心させる手じゃ。もう気を使わんでヨカよ。オレは癌で死ぬけん」
と、手の施しようがない。仕方なく翌日もう一度胃の透視を行い、現代のようにモニターなどない時代なので、大きな鏡を前に据え自らの腹のうちを詳細に診られるようにはからった。
ようやく納得したらしく、髭面に涙を滴らせながら体裁をかなぐり捨てて喜んだ。
「病気というものは、患者さんご自身のもの。それを本人が知らないのは、アンフェアーと思いませんか。
自分の命に関わる重大事を知らずに終わるのは、もし自分なら堪えられませんね。
ですからどんな場合でも、私は患者さんにすべてを話します」
患者は、自分の病気とその予後を知る権利があるという考えは、最新医学を誇るアメリカ腫傷学の医師たちの間では共通のものである。
わが国の還暦を過ぎたベテランの医師たち、特に内科の医師の話を聞くと癌の告知には大変慎重な発言が多かった。たとえば癌と告知する時は、その患者が癌という病気や死というものをどのように考えているかを、さりげない会話のうちに探ってから話すという。
また癌という言葉ではなく、なるべくオブラートに包んだ言葉で悟らせるようにするのが患者のためだという話を何人もがする。ところが医師となって十五年から二十五年くらいで、言うなれば現役としてもっとも働き盛りである彼らは、自分が受け持った九五パーセント以上一○○パーセントに近い癌患者に、告知を行うと断言しており、今や告知することは常識となってきている。

その大きな理由としては、以前と異なり癌という病気を早く発見して治す可能性が大変膨らんだということである。癌の診断と治療法の発達は目覚ましく、もはや手術だけでなく、そもそもサイコオンコロジーは二十世紀後半から、アメリカや欧州で癌患者の精神医学に関心が高まり学問的な注目を浴びはじめた。
一九七七年にはアメリカはニューヨークのスローンケタリング癌センターで独立した癌患者のケア専門科が設置され、続いて一九八○年にはWHO(世界保健機関)によって患者のQOLを高めるプロジェクトが結成された。これを受けて、国際サイコオンコロジー学会は一九一○○パーセント告知を掲げるSでも、やたらに告知するわけではない。
告知の際の言葉づかいやその後のケアには、人一倍の慎重な配慮で対応している。特に患者自身とその家族の精神的なケアに関しては、細心の気遣いを怠らない。
幸い彼の病院に、癌患者の心の問題を専門にケアをしてくれるサイコオンコロジスト(精神腫傷学者)が四年ほど前に生まれた。Sは最近その専門家と一緒に、告知後のフォローとケアを行うことにしている。
化学療法や放射線療法、またいわゆる手遅れといわれるものに対してもさまざまな手法がある。さらに、現在では単に延命だけを目的とした従来の癌治療から、患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を保つよう手助けする方向に向かっている。
癌になったからといって、まるで死の宣告を受けたような気分に陥るという時代は過ぎてゆこうとしている。Sは「癌は一○○パーセント告知する」とは言うが、どうしても告知ができない患者はいる。

それは家族が「本人には伝えないで」と、たって希望する場合である。このような場合には他の癌を診る医師たちも告知していない。
家族が患者を思う気持ちを第一優先にするからである。だがSはなぜそれほどまでに告知にこだわるのだろう。
八四年に、国内では一九八七年に日本臨床精神腫傷学会、後の日本サイコオンコロジー学会が発足し、癌患者の心理的、精神的なケアへの研鎮がなされている。スローンケイタリングで癌専門の初代精神科部長となったJの二○○○年のアメリカ臨床腫傷学会雑誌に掲載された医療者に向けた指導用の論文には、癌の患者に対していかに適切に早い時期で悩承を探り出し、それぞれの専門家のカウンセリングを行い治療するかの教育指針が示されている。
腫傷学のチームは医師、看護婦、ソーシャルワーカーによって組まれ、各々の患者に独自のスクリーニングをすることで、どう対応するかを考えようという論旨であった。残念なことには、まだ日本ではこの科を置く施設も専門家も少なく、しかも必要性を認める現場さえも少ないと聞いている。
専門の肝臓の場合は、特に検査も治療も苦しみや痛承を伴って辛いのです。

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